創造性が先か、もがいた先に創造的仕事ができるのか?

知的生活の方法 続 (講談社現代新書 538)

知的生活の方法 続 (講談社現代新書 538)

P76
われわれは、文学作品であれ、絵画であれ、「芸術」といわれる分野のものは、インスピレーションによってできあがると思いがちである。もちろんインスピレーションがなくて芸術作品が生まれるわけはないが、「作品」と名のつくものは、その大部分は機械的な作業であることを悟らない人は、知的生産には無縁二度止まるであろう。インスピレーションのものと思われやすい音楽も、その作曲家にとっては、楽譜に書かないことには話しにならないのだ。オーケストラのための楽譜を書くとき、演奏すれば十分ぐらいの部分のために、作曲家は何時間音符を書き続けることか。

過去の知的生産物の芸術品といえども、人の勤勉さに支えられているのである。イマジネーションとか創造性となると、特別の人が特別の力を発揮したと思えるけど、実はその源泉が機械的な作業の先に創造性が発揮できるというところがおもしろい。

P83
そこで生ずる疑問は、おそらく、昔の農夫が畑を耕すように、そんなに機械的に働き続けたら、インスピレーションはどうなるのか、ということであろう。ところがそれはどうも逆らしい。エジソンは発明は九分の努力(=汗)と一分の霊感(インスピレーション)といったというが、もっと正確に言えば、汗をかいているうちに、汗とともに霊感(インスピレーション)も出てくるのではないか。(略)精いっぱいの勤労をしていると、心はかえってのどかで余裕があるというのだ。(略)外見的には機械的に動いているとき、かえって心は自由になりつぎからつぎへとアイデアやら構想が浮かび、洞察が深まってゆくというのが常である。

また、本書では、プライベートな図書館(自宅の蔵書)の充実が累積効果を生み、一定年齢以上での爆発的なアウトプットを生むという。
P130

ダーウィンは、田舎に引っ込み、大学や図書館や博物館とはほとんど関係なく、自宅がすべてであった。そして「種の起源」が出たのは50歳のときで、それから次々とこれを上回る大著が出た。たとえば59歳のときに「家畜および栽培植物の変異」、63歳のときに「人間の由来」、63歳のときに「人間と動物の表情」というふうに続いて、最後に出た「ミミズの作用による栽培土壌の形成」は72歳のときのものである。これらはいずれも資料の蓄積が累積効果(cumulative effect)を持つにいたったものと考えられる。

これは、勤勉さの累積効果にもいえると思う。どちらも凡人の僕には勇気がでる内容であった。