仕事の喜びとは何か?

2008年4月1日 日経新聞 伊集院静

仕事の喜びとは何か?
新社会人おめでとう。
君は今どんな職場でどんな仕事に就いただろうか。そこが君の出発点だ。
きみを迎えた人たちは皆、心から祝福している。どうして皆がおめでとうと言うのだろうか。世の中にはさまざまな事情で働けない人たちが大勢いる。その人たちの夢を私は聞いたことがある。「どんな仕事でもいいから働きたい。働いて一人前の人ととして生きたい。」皆知っているんだ。仕事をする。働くことがどんなにすばらしいかということを。
仕事とはきびしいものか?それは厳しいに決まっている。仕事はつらいか?勿論、つらい時もある。耐えなくてはいけない時があるか?ある、ある。でもそんなものは仕事の一部でしかない。仕事には私たちを辛苦に耐えさせる何かがある。働くことで人は今の社会を作ってきた。そうでなければとうに人類は地球から消えている。すべての人にせいの尊厳があるように、どんな仕事にも尊厳がある。生きる喜びがあるように、仕事にも喜びがあることを、君はいつか知るだろう。
仕事の喜びとは何か?結果をたたえられることか。金を得ることか?そんなちっぽけなもんじゃない。それは仕事をしていて、自分以外の誰かの役に立っていることが分かることだ。それこそ仕事の真の価値なのだ。
初仕事をはじめるに前に守ってほしいことがある。それは今まで君が生きてきて大切にしていたものを捨てないことだ。ファッションでも、音楽でも、恋愛だっていいんだ。大切にしているものには、そこに個性がある。個性は君そのものであり、創造の原動力だ。皆が同じカラーで仕事をする時代は終わったんだ。
いつか個性が役に立つときが来る。いつか喜びを知るときがくる。目指す頂は高いぞ。
そのときのために身体を心を鍛えておこう。君の出発の日に乾杯。